澄み渡る空の下、毛針釣りに興じる。
やはりこれが贅沢というものだ。
その上、魚が釣れては申し訳ない。
日差しも落ち着いた頃、プールに向かうと
うす茶色をした大きなイワナが悠々と泳いでいる。
ときおり身をひるがえしてその美しい模様を水面下にのぞかせる。
カゲロウを模した毛針を結び、慎重にキャストする。
いいところに落ちた。
流れの境目にカゲロウが浮かぶ。
「ボコッ」
音とともにきらめくような白点が見えた。
軽くあわせると、しっかりとした重さが手に伝わる。
「よし!やった!」
心のなかで叫ぶ。
右手を高く上げ、ラインをたぐる。
魚は走りはしないものの、体を大きく振ってずんずんロッドを曲げる。
少しずつ、慎重によせる。
ランディングネットに手を伸ばした瞬間だった。
右手がすっと軽くなり、カゲロウは空を飛んでいる。
そして心臓の鼓動が聞こえてくる。
「逃げた魚は大きい」
この言葉のとおり、逃げた魚は大きかった。
くやしいことはくやしいが、
くやしいからこそ、やめられない。