なにもしらない桜 去年の4月はとても忙しい時期だった。いつもなら桜を見にあちこちと行っていたのだが、その年はどこにも行けず、仕事の途中に車から見える桜を遠くから眺めるだけだった。 ある朝、めずらしく早起きをした。仕事までは時間がある。私は車に乗って少しだけどこかへ行く事にした。桜を見に行こうと出かけたもののいざとなるとどこへ行ったらいいかわからない。少し考えてよくキャンプをしていた河原に向かう事にした。そこには桜の木がある。きっと咲いている。車を走らせているとその桜が遠くに見えてきた。 桜は見事に咲いていた。 朝日を浴びた桜は黄色みがかったように花びらが透けて、全体が光っているように見えた。 私はそのまま桜を見上げた。本当にきれいだった。とてもきれいだった。 見ていたら少しだけ涙ぐんだ。 そして、とてもさわやかな気持ちになった。 私は車からカメラを取り出して、何枚かの写真を撮った。どれも私がみた桜の姿は写らなかったが、少しは満足がいったので写真を撮るのをやめた。 そしてしばらく桜をただ眺めた。しばらくすると他にも桜を見に来た人たちがいた。みな思い思いに桜を見ていた。 私はとてもしあわせな気持ちで家に帰った。 その後、しばらくして同じ場所を訪れると桜の木はなくなっていた。桜があった場所には山形の観光のために行われる芋煮会に使用される大鍋があった。桜の木は切り刻まれて土手に捨ててあった。その日は鍋の設置工事の落成式が行われるようでテントの下にイスが並び、紅白の幕があった。 切られた桜はきっと切られた事を知らないだろう。根は水を求め、葉は光を求めているだろう。来年も咲くのだと思っているだろう。そのうちに記憶はうすれいつのまにかなくなってしまうのだろう。 もしも桜の名所であったなら桜は切られる事はなかっただろう。 名所といわれるものの価値は人が決める。私も何かを作り出す時に何かを犠牲にする事があるだろう。例えそれが生命であってもそうするだろう。私が桜を切った人々を非難するのは私の勝手というものだろう。私は答えがみつからないままただ悲しくなった。 数週間後、脇の方に桜の木が植えられていた。細く、頼りない桜の木だった。 あの桜も初めはきっとこんな姿だったのだろう。桜はなにも知らないだろうが 私は思い出の中にその桜をとどめることにした。 表紙の写真 「唐松観音の桜。2008年撮影」
by ffreport
| 2009-03-31 00:14
| フラワーフォト
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